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ストレスチェックで使う調査票、どんな質問が載っている?
労働者のストレスの程度を測り、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的として、ストレスチェック制度は行われています。
業種や職種、事業場の規模によって労働者が受けるストレスは異なるため、ストレスチェックを行う際に使用する質問票(調査票・ストレスチェックシート)の形式は一律には定められておらず、一定の要件さえ満たせば、各事業場が業務内容や職場環境に合わせて質問項目を設定することができます。
また、ストレスチェックを受けた結果ストレスが高いという結果になった労働者は、医師による面接指導を受けることができますが、「高ストレス者」を選び出す基準も各事業場の判断に任されています。
選定基準は、ストレスチェック実施前に各事業場の衛生委員会などで決めなければならず、ストレスチェックの結果が出てから変更することはできません。
ここでは、国が推奨している質問票「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」をもとに、ストレスチェックの結果をどのように評価して高ストレス者を選定すればよいかをご説明します。
まずは、質問票の3つの領域とそれぞれの質問項目例を見ていきましょう。
<職業性ストレス簡易調査票>
職業性ストレス簡易調査票(57項目) [厚生労働省・Word]
A. 仕事のストレス要因
非常にたくさんの仕事をしなければならない
働きがいのある仕事だ
B. 心身のストレス反応
活気がわいてくる
首筋や肩がこる
C. 周囲のサポート
あなたが困った時、次の人たち(上司・職場の同僚・配偶者、家族、友人)はどのくらい頼りになりますか?
ストレスチェックで使用される質問票に記載されている質問項目は選択式になっていて、4段階の回答が用意されています。労働者には自分の状態に最も近いと思われる回答を選んでもらい、回答を点数化してその労働者のストレス状態を評価します。
ストレスチェックを実施したり受検結果を評価したりするのは、事業者ではなく「実施者」です。
「実施者」は、労働者の受検結果を評価し、あらかじめ衛生委員会などが定めた基準に従って医師による面接指導が必要な高ストレス者を選び出しますが、その際に用いる評価方法には、「単純合計を用いた判定法」と「標準化得点を用いた方法」の2種類があります。
単純合計判定法~調査票の回答を点数に換算して合計する方法
単純合計判定法では、労働者個人のストレスを簡潔に評価することができます。これは、3つの質問領域「A. 仕事のストレス要因」「B. 心身のストレス反応」「C. 周囲のサポート」におけるストレスの程度を、各領域の回答の点数を合計して評価する方法で、ストレスが高いほど点数が高くなります。
例えば、「A-2. 時間内に仕事が処理しきれない」という質問に対して、4つの選択肢(そうだ・まあそうだ・ややちがう・ちがう)から最も当てはまる回答を選びます。「そうだ」を選択した場合はストレスが高いと判断されるので4点、「まあそうだ」は3点、「ややちがう」は2点、「ちがう」は1点に換算されます。
一方、「A-8. 自分のペースで仕事ができる」という質問で「そうだ」を選んだ場合はストレスが低いと判断されるので1点、「まあそうだ」は2点、「ややちがう」は3点、「ちがう」は4点に換算されます。
回答の選択肢から「そうだ」などを選んだとき、ストレスが高いと判断される質問と低いと判断される質問が混ざっていますので注意が必要です。
<「そうだ」もしくは「ほとんどなかった」が4点(ストレスが高い)の質問項目>
A 1~7、11~13、15、B 1~3
<「そうだ」もしくは「ほとんどなかった」、「非常に」が1点(ストレスが低い)の質問>
A 8~10、14、16、17、B 4~29、C 1~9
標準化得点を用いた方法~素点換算表を使う方法
素点換算表を使って質問票の回答を点数化する方法は、計算方法がやや複雑ですが、ストレスの状態や要因に関する詳細な情報を得ることができます。
単純合計判定法同様、3つの質問領域「A. 仕事のストレス要因」「B. 心身のストレス反応」「C. 周囲のサポート」におけるストレスの程度を、各領域の回答を点数化して評価しますが、まず全ての回答の点数を出した後、「尺度」というまとまりごとに再度点数に換算するのが単純合計判定法とは異なるところです。
素点換算表では、高ストレス者判定に用いる質問項目が3つの領域だけではなく18の尺度に分けられています。
質問領域「A. 仕事のストレス要因」には9つ、「B. 心身のストレス反応」には6つ、「C. 周囲のサポート」には3つの尺度が設定されていますので、回答をいったん点数化して尺度ごとに合計した後、その合計点を素点換算表に当てはめて5段階の評価点を出します。
標準化得点を用いた方法では、どの尺度もストレスが高いほど評価点が低くなるように換算されます。
「高ストレス者」を選定する評価基準とは?
高ストレス者の選定基準を定める際、質問票に記載されている3つの質問領域のうち最も重視しなくてはならないのが、「B. 心身のストレス反応」です。ストレスによって労働者の心身に実際に不調が発生しているのであれば、早急に対策を取る必要があるからです。
そのため、「B. 心身のストレス反応」で著しくストレスが高いという結果になった場合は、ほかの2つの領域においてストレスが低いという結果が出ていたとしても、高ストレス者と判定しなければなりません。
ここで気をつけたいのが、「B. 心身のストレス反応」の結果を重視するあまり、「A. 仕事のストレス要因」や「C. 周囲のサポート」でストレスが高いという結果になった労働者を見逃してしまうことです。
心身に表れているストレスの自覚症状がまだ少なくても、仕事の負荷が高かったり周囲からサポートを受けていなかったりする労働者は、メンタルヘルス不調のリスクを抱えています。
国が推奨する質問票「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を使用したときの高ストレス者の評価基準例を見ると、その点に配慮されていることがよく分かりますのでご紹介します。
<単純合計判定法で評価した場合の例>
1.質問領域「B. 心身のストレス反応」の合計点数が77点以上の労働者
2.質問領域「A. 仕事のストレス要因」と「C. 周囲のサポート」を合計した点数が76点以上であり、かつ「B. 心身のストレス反応」の合計点数が63点以上の労働者
<標準化得点を用いた方法で評価した場合の例>
1.質問領域「B. 心身のストレス反応」の評価点の合計が12点以下の労働者
2.質問領域「A. 仕事のストレス要因」と「C. 周囲のサポート」の評価点を合計した点数が26点以下であり、かつ「B. 心身のストレス反応」の評価点の合計が17点以下の労働者
国の高ストレス者評価基準例は、高ストレス者の数がストレスチェックを受けた労働者数の10%程度になることを想定しています。しかし、事業場によって労働者の受けるストレスの種類や程度は異なります。国の評価基準例を参考にして、各事業場の特性を考慮した評価基準を設定し、ストレスチェック制度の目的であるメンタルヘルス不調の未然防止につなげましょう。