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集団分析は組織の問題を可視化できる
改正労働安全衛生法によって、常時50人以上の労働者が働く事業場にはストレスチェックが義務付けられました。一方で、ストレスチェックの受検結果を部署や課など一定規模の集団ごとに集計・分析する集団分析は努力義務のため、実施しなくても罰則は課せられません。
しかし、集団分析を実施することによるメリットは多く、ストレスチェックの結果を活用するためにも、「行わなければもったいない」といえるでしょう。
そもそもストレスチェックは労働者個人に対して実施するものです。これに対して集団分析は、個人のストレスチェック結果を事業場単位で集計し、年代や性別、部署や職位といったさまざまな観点から分析を行います。
集団分析をすることで高ストレス者が多い集団などを可視化できるため、職場環境改善活動において、どこに力を入れて取り組むべきかが分かります。
ストレスチェックの実施目的は、メンタルヘルス不調を未然に防ぐために高ストレス者を把握し、職場環境を改善することにありますので、集団の状態を正しく理解することが欠かせません。
なお、集団分析では、集計人数が10人未満の場合、実施者は原則として集計結果を事業者に提供してはならないとされています。これは個人が特定されることを防ぐためで、事業者が集計結果を知るためには、集計・分析の対象となる労働者全員の同意を得る必要があります。
しかし、分析を行いたい集団におけるストレスチェックの合計点の平均値を用いたり、次に紹介する「仕事のストレス判定図」を使用したりするなど、個人が特定されない方法で3~9人の集団分析を行うことは可能です(2名以下は個人が特定される可能性が高いため不適切)。
その場合は衛生委員会などで調査審議し、社内規程として定めなければなりません。
集団分析の評価はどのようにして行うのか
次に、集団分析は誰がどのようにして行うのかについて見ていきましょう。集団分析を行う主体は実施者となります。厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」もしくは「簡略版(23項目)」をストレスチェックに使用した場合は、「仕事のストレス判定図」を利用して評価を行うことができます。
この判定図は、職業性ストレス簡易調査票の「仕事の量的負担」「コントロール」「上司支援」「同僚支援」の4つの尺度の得点について、集団における各項目の平均値を図上にプロットし、その位置を標準集団(全国平均)と比較することで、その集団におけるストレスの特徴を捉えることができます。
これが最も簡易的な集団分析手法です。さらに踏み込んだ集団分析を行いたい場合は、EAP企業をはじめとする外部機関を利用することで、精緻な分析ができます。
「仕事のストレス判定図」では、男女別に見ることは可能ですが、それ以外の切り口は用意されていません。おそらく事業者が最も知りたいのは、同業他社と比較した場合だと思いますが、「仕事のストレス判定図」は全国平均であり、業種別の比較ができません。
その点、EAP企業などはさまざまな業種の集団分析を手掛けているため、業種別比較といった多様な分析ニーズに応えることができます。分析の専門スタッフを抱えている企業であれば、細かいレポーティングにも対応してもらえます。
ストレスチェックの実施は年に1回以上と定められていますが、実施時期は事業者に任されています。繁忙期なのか、それとも閑散期なのかなどによって、受検結果に差異が生じることが考えられますので、できる限り毎年同じ時期にストレスチェックを行って経年変化を見るといいでしょう。
繁忙期と閑散期に1回ずつというように年に2回ストレスチェックを実施すれば、時期によるストレス状況が分かりますし、年ごとに比較することで、現在のストレス状況が一過性のものか恒常的なものかを把握することもできます。
ストレス状況を正しく理解して職場環境の改善活動につなげるために、事業者にはストレスチェックの実施時期にも配慮することが求められます。
集団分析の結果を活かすために必要なこととは?
集団分析を行う目的は職場改善に活用することにあるので、事業者は分析結果を基に、ストレス要因と思われる問題についての改善策を検討・実施する必要があります。
集団分析を実施して職場環境の改善に取り組んだ企業では、次のストレスチェックの結果に良い変化が見られており、集団分析が非常に重要であることが分かります。
職場環境の改善活動は、全社的なものであれば総務人事部門が、各部門部署によるものは各職場の管理監督者が主導して行います。事業者は集団分析の結果を部課長級の管理職に展開し、結果を正しく共有するように努めましょう。
また、「高ストレス者が多い=管理監督者のマネジメント能力の不足」とは必ずしもならないことにも留意すべきです。
もちろん、上司と部下の間におけるコミュニケーション不足などがストレス因子となっているケースも見受けられますが、業務量が過多となっているなどさまざまな要因が考えられるため、何が問題となっており、どのような解決策が講じられるかを前向きに検討することが肝要です。
特にストレスは末端社員ほど顕著に見られることが多く、管理者の気付かない部分に問題が隠されていることがあります。職位階層によってもストレスの原因が異なるものです。業務が多岐にわたる部署や異動の多い部署、クレーム処理を行う部署、人員不足の部署ではそれぞれにストレス要因は違ってくるでしょう。
部門間連携が課題となっているケースも多く見受けられるので、部門横断のディスカッションを行うことも有効です。管理監督者は自部門の結果だけではなく、全社的な視点でもって職場環境の改善活動を推進することで、真に効果のある施策を講じることができます。
誠意をもってストレス要因を取り除く方法と向き合うことで、きっと次のストレスチェック結果に効果が現れてくることでしょう。