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メンタルヘルス=心の健康とは何か
近年は、世界の国々でメンタルヘルス不調者が増えています。さらに、コロナ禍で拍車がかかり、世界で不眠症が20%増加、フランスではうつ病者が2倍になったというデータも出ています。
ビジネス社会において健康経営、ウェルビーイングという概念が注目されてきた一方、さまざまな理由で増え続ける従業員のメンタルヘルス不調。企業人事や現場管理職には、衛生管理という面からも、生産性向上という側面からも、従業員のメンタルヘルスをサポートすることが求められています。
今やメンタルヘルスの基礎知識は、マネジメント上の必要スキルになっていると言えるでしょう。メンタルヘルスとは直訳すれば「心の健康」を意味します。世界保健機関(WHO)では「自身の可能性を認識し、日常のストレスに対処でき、生産的かつ有益な仕事ができ、さらに自分が所属するコミュニティに貢献できる健康な状態」と定義しています(*)。
心の健康状態は、自分では気づかないことが少なくありません。ストレスなどが原因となって無意識のうちに自分自身をコントロールできなくなってしまう状態が、いわゆるメンタルヘルス不調なのです。
また、心の問題は非常にデリケートな領域であり、知識がないために誤った対処方法を取るとかえってダメージが深くなり、症状を悪化させてしまう恐れがあります。正しいケアの方法を学び、必要があれば専門医に見てもらうことが重要です。
本記事では、人事担当者が知っておくべきメンタルヘルスの代表的な5つの症例について解説します。
メンタルヘルスに起因する代表的な精神疾患
厚生労働省は、国民の健康を保持するために広く継続的な医療を提供すべき疾病として、「がん」「脳卒中」「急性心筋梗塞」「糖尿病」の4種類に加え、2011年から新たに「精神疾患」を追加して対策に力を入れています。
ここでは、代表的な5つの精神疾患について解説します。
1.うつ病
【症状】
気分の落ち込みが激しい、好きだったことが楽しめない、イライラすることが多いなどのネガティブな感情が起きる抑うつ状態が続きます。めまいや頭痛、肩こり、動悸、食欲減退、不眠、集中力の欠如などの身体的症状がうつ病から派生しているケースもあります。2週間以上このような症状が続く場合は要注意です。
うつ病には、抑うつ状態だけが続く「うつ病(大うつ病性障害)」と、抑うつ状態と躁状態の両方が起こる「双極性障害」の2種類があり、治療方法はそれぞれ異なります。統計結果によると、日本では100人に約6人がうつ病を経験しています。「まさか自分がなるとは思わなかった」という人も多く、誰がいつかかってもおかしくない精神疾患です。
【原因】
特定の原因から発生するというより、複数の要因が積み重なって発症するといわれます。性格の特性、服用している薬、遺伝、身体的な疲労、過度なストレスなど、さまざまな要因が考えられます。
【主な治療方法】
症状や発症要因によって異なりますが、まず休養をとることが基本です。その上で、薬物療法、精神療法を組み合わせて治療を進めるのが一般的です。
2.パニック障害・不安障害
【症状】
パニック障害は不安障害の一つで、突然不安な気持ちが強くなり抑えきれなくなります。めまい、動悸、発汗や呼吸困難を起こしたり、イライラ、興奮、倦怠感を感じたりします。自分でも予期しないタイミングで発作が起こるため、「いつ発作が起きるかわからない」という不安から精神的に不安定になり、引きこもりやすくなります。
【原因】
はっきりとは解明されていませんが、脳機能異常が原因という説が現状は有力です。ストレスなどの心理的要因や環境的な要因も関わっているとされています。
【主な治療方法】
薬物療法、精神療法が並行して行われます。 パニック障害は一見落ちついたように見えても再発する可能性があるため、症状が改善してからも半年~1年程度は薬を飲むなど様子を見る必要があります。
3.適応障害
【症状】
抑うつ気分や不安感、怒り、神経過敏、めまいや発汗のほか、無断欠勤、危険運転、暴言、暴力、けんかなど行動面にも症状が見られることがあります。 うつ病と似た症状なのですが、適応障害の場合は、原因から遠ざかれば症状が落ち着きます。
【原因】
生活や環境の大きな変化に適応できなかったり、特定の出来事をストレスに感じることで発症します。
【主な治療方法】
ストレスの原因となっている状況や出来事、環境から離れることがもっとも有効な治療方法です。
4.睡眠障害
【症状】
不眠や日中の眠気、睡眠中の病的な行動など睡眠に関わる病気の総称です。寝つきが悪い、十分な睡眠時間を取っているのに寝足りないと感じる、夜中に何度も目が覚める、いびきをよくかくなどの症状が1ヶ月以上続くときは睡眠障害の可能性があります。睡眠不足が続くので身体的な健康を損なったり別の精神疾患を引き起こしたりする可能性があるので、早めに医師に相談することが大切です。
【原因】
生活習慣、精神疾患、薬の副作用など原因はさまざまです。複数の要因が絡んでいる場合もあります。
【主な治療方法】
睡眠の専門医による診察や検査によって原因を特定する必要があります。症状によって治療方法が異なるだけでなく、違う病気の可能性もあるからです。軽度な不眠症は規則正しい生活、運動や食生活の見直しで改善するケースもあります。
5.依存症
【症状】
アルコール、薬物、特定の食物や行為に依存することを止められない疾患です。衝動的な行動、物事への異常な執着心など、自分の気持ちや行動をコントロールできなくなるので、日常生活に支障が出ます。 依存している物を過度に摂取することにより身体的・精神的に大きなダメージを負うだけではなく、依存している対象が手に入れられないと禁断症状が起きイライラ、手の震え、頭痛、吐き気などの症状が表れます。
【原因】
依存している対象がアルコール、タバコ、食品であれ、万引きなどの違法行為であれ、依存している行為を行うと、快楽をつかさどる神経伝達物質ドーパミンが脳で分泌され快感を得られます。しかし、繰り返していると快感や喜びの程度が低くなるため、次第により多く求めるようになり悪循環に陥ります。
【主な治療方法】
本人の意志だけで依存している物を絶つのは難しいため、専門機関による入院治療や自分と同じように依存症と闘っている人たちとの共同生活を営みながら依存心を克服する方法がとられます。なるべく軽度の段階で依存症だと気づき治療を始めることが肝心です。
メンタルヘルス疾患の治療方法には、まず原因を特定することが大切です。
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・関連記事はこちら→メンタルヘルスの不調……。原因はどこにある?
職場におけるメンタルヘルスケア
メンタルヘルスの不調は、本人が精神疾患の症状に気付いていなくても、表情や行動にサインが表れているケースがあります。多くの人が一日の大半を過ごす職場では、同僚や上司による気付きがとても大切です。厚生労働省は職場におけるメンタルヘルスケアとして、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」という4つのケアを推奨しています。
まずは、従業員全員がストレスチェックを受けることによってストレス状況に気付き、セルフケアに取り組むことから始めましょう。ストレスを感じている本人がそのことに気付くことが、メンタルヘルス不調予防の第一歩です。
「ラインによるケア」の対策として、近年は、大手企業などで管理職全員あるいはリーダー候補に「メンタルヘルス・マネジメント検定試験Ⅱ種【ラインケアコース】」取得を義務づけるケースも出てきています。一般企業では、通常業務で心理学やメンタルヘルスの基本を学べる機会はあまりないため、正しい理解を浸透させるために資格取得を奨励したり、研修を実施したりすることは有効な方法だと言えるでしょう。
また、社内にカウンセリング窓口を設けたり、職場環境の改善活動を行ったりすることで労働者のストレスを緩和するように努めることが企業には求められています。 労働者と事業者の双方が努力することで、メンタルヘルスの改善が望めます。
*World Health Organization(世界保健機関)「Mental health」