職場でストレスチェックを実施した後、高ストレス者と判定された従業員に対して、事業者(企業側の人事担当者など)の立場として何をすれば良いのか迷ってしまう人も多いのではないでしょうか。本記事では、ストレスチェック後、高ストレス者に対して事業者及び従業員本人が対応すべきことや面接指導の流れ、内容などを解説します。
目次
ストレスチェックによる高ストレス者とは
ストレスチェックの結果、高ストレス判定を受けている従業員の存在が判明したり、集団分析により高ストレス者の割合が多く、職場環境改善を迫られたりする際に、そもそも高ストレス者とは何に基づいて判断されているのか、改めて気になる担当者もいるのではないでしょうか。はじめに、高ストレス者の選定基準や選定方法について解説します。
ストレスチェックの「高ストレス者」の位置づけ
厚生労働省が発行している「ストレスチェック制度導入ガイド」によると、高ストレス者とは「自覚症状が高い者や、自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポート状況が著しく悪いもの」と位置づけられています。
なお高ストレス者の割合はストレスチェックの受検者のうち5~20%程度で、どの事業場においても一定の割合で存在しているとされます。
参照:厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」
高ストレス者の選定基準
厚生労働省が公表したストレスチェック指針によると、
① 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者
② 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が一定以上の者であって、かつ、「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」及び「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者
を高ストレス者として選定すると示されています。
ただしこれは、高ストレス者を選定するためのルールとして定められたものではありません。
ストレスチェックでは、選択式の質問票(調査票・ストレスチェックシート)を使用して従業員のストレスの程度を点数化します。
どれぐらいの点数を取得した従業員を高ストレス者に分類するかは、各事業場の衛生委員会などの判断に委ねられています。各事業場の特性を踏まえつつ、ストレスチェックの実施者の意見及び衛生委員会などの調査・審議を経て、あらかじめ事業者が選定基準を定めるようにしましょう。
具体的な選定基準の決め方に関しては、厚生労働省が発行している「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」のP38~46を参考にしてみてください。
高ストレス者の選定方法
ストレスチェックを受けた従業員が高ストレス者に該当するか否かは、事業者側が決定した「高ストレス者の選定基準」をもとに、産業医等ストレスチェックの実施者が最終的に判断します。(高ストレス者の選定に事業者側は関わることができません。)
高ストレス者を放置するリスク
高ストレス者への対処を適切に行わなかった場合、従業員はもちろんのこと事業者にも大きなリスクがあります。従業員側、企業側に考えられうるリスクをみていきましょう。
【従業員】メンタル不調の発生・悪化
高ストレス者に該当しているにもかかわらず、面接指導の希望を申し出ずにそのまま働いていると、ストレスへの対処が遅れる恐れがあり、心身にさまざまな不調が生じたり、うつ病などのメンタルヘルス疾患を発症したりする可能性があります。あるいは、既に何らかの不調として表れているものが悪化してしまうことも考えられるでしょう。仕事だけではなく、日常生活にも大きな支障をきたす恐れがあります。
【企業】生産性・労働力の低下
従業員がストレスを抱え、メンタルに不調をきたしたまま働いていると、業務効率や生産性が下がりパフォーマンスが発揮できず、業績が担保できなくなる可能性もあります。
さらに休職や離職などが生じると労働力の低下につながり、組織の維持にも影響を与えかねません。
【企業】訴訟リスク
高ストレス者が面接指導を希望しているのに放置した場合や、面接指導を行った医師の勧告を無視して高ストレス者に対し無理に就業を継続させるなど、適切な措置を怠った場合、労働契約法第5条における安全配慮義務違反となります。
また民法第415条に基づいて、従業員から債務不履行責任による損害賠償を求める訴訟を受けるリスクがあります。
ストレスチェックで高ストレス者判定が出た場合に企業側が対応すべきこと
実際にストレスチェックの結果で高ストレス者が出た場合、企業側が対応すべきことについて解説します。
高ストレス者本人の申し出を受け面接指導を実施する
高ストレス者から面接指導の申し出を受けたら、ストレス状態を悪化させないためにも速やかに医師による面接指導の場を設けることが大切です。従業員から申し出を受けた事業者は、概ね「1ヵ月以内」に医師による面接指導が実施できるように調整をしましょう。
事業者は、高ストレス者から面接指導の申し出を受けつけ次第、「面接指導申出書」を作成します。この作成完了後、面接指導を行う産業医等に郵送もしくはメールで送付し申請を行い、日時や場所の調整を行います。
この時、事業者は従業員からの申し出の記録を5年間保存する規定となっているため、「面接指導申請書」も適切に保管するようにしてください。
参照:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル」
面接指導を申し出やすい環境・体制を周知する
高ストレス者が面接指導を希望しない限り、面接指導は実施されず、強制することはできません。希望しない要因のひとつに、申し出にくい環境である可能性が考えられます。そのため事業者側は、高ストレス者が面接指導を希望しやすい環境・体制を作ることが大事です。
例えば周りの目を気にせずに申し出ができるよう、オンラインで面接指導を申し出できる体制などを整えます。併せて、面接を希望する際の窓口や申し込みのルートについて、社内のイントラネットなどのわかりやすい場所に案内を掲載し、周知しておきます。高ストレス者であることで、退職推奨や配置転換など不当な扱いを受けるような不利益は生じない旨もきちんと発信し、高ストレス者が安心して申し出ができるようにしましょう。
また、産業医またはメンタルヘルスの専門家から事業者に対して、必要であれば就業上の措置を取るよう意見を伝えてもらうこともできます。さらに、セルフケアの方法など具体的な助言も受けられるため、従業員に面接指導の希望を申し出てもらえるよう促しましょう。
面接後の意見聴取、就業環境の調整
事業者は、面接指導を担当した医師から1ヵ月以内を目安に「面接指導結果報告書及び事後措置に係る意見書」を受け取ります。その後、医師の意見を参考にしながら、必要と思われる就業上の措置を取りましょう。就業環境の調整・改善が必要だと医師が判断した場合、事業者は労働時間の短縮や業務内容の変更といった業務改善を行うなど、高ストレス者のストレス軽減に努めることが求められます。
ただし中には、職場や仕事ではなく、プライベートの問題が高ストレス状態の原因となっていることもあります。こういったケースでは積極的な介入が難しい場合も多いため、職場環境や勤務体系の調整などでサポートすることも検討してください。場合によっては休暇の取得、休職といった対応も視野に入れておきましょう。
就業上の措置を実施する場合は、事業者側から一方的に労働時間の短縮や業務変更提案を行うのではなく、従業員と十分に話し合いを行わなければなりません。当人の理解や納得を得る形で、心身ともに健康に働ける環境を整えていくことが大切です。また、就業上の措置を行った後も、経過を見守り、定期的にミーティングの場を設け状況ヒアリングを行ってください。
また面接指導の結果を理由に、解雇・退職勧奨や、本人の同意を得ない職位変更・配置転換などをすることは禁止されているので注意が必要です。就業環境を調整した結果、ストレス状態に改善傾向がみられる場合は、従業員本人や産業医の意見を仰いだ上で、通常の勤務に戻すことも検討します。面接指導実施後、事業者は労働基準監督署にストレスチェックと面接指導を受けた人数の報告を必ず行います。既定の様式を使用する必要があるため以下より確認してください。
■心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書■
集団分析を行い、組織改善に取り組む
高ストレス者が所属している部署では、他の労働者も同様のストレスを抱えている可能性があります。そのため高ストレス者への配慮だけではなく、同時に部署全体の環境改善についても見直すことが重要です。高ストレス者が置かれた労働環境を見直し、組織改善に取り組むことで、高ストレス者のケアにつなげましょう。
大事なのは、「ストレスの原因はどこにあり、どうすれば解決するか」を考えることです。実施したストレスチェックを無駄にしないためにも、集団分析が可能な事業者はぜひやってみましょう。
その他、匿名でアンケートをとって状態を把握する、部署の従業員と1on1を通じて不安やネックに感じていることがないかヒアリングして不調を察知し、取り除いていくアクションを取ることも有効です。人事との面談を希望する人だけアンケートに記名してもらい、1on1につなげても良いでしょう。
社外に相談窓口を設置する
自分が高ストレス者だと他の人に知られるかもしれないという不安を感じたり、多忙が故に面接指導を後回しにしてしまったり、あるいは事業者側の窓口が人事担当の場合、同期や仕事で関係性があった人などであれば、面接希望の申し出をしにくいことがあるかもしれません。面接指導の申し出ができずにいる高ストレス者が一人で抱え込まないためにも、社外に専用の相談窓口を置く方法もあります。
自社の担当者を通さずに、従業員が直接利用できる外部カウンセリング窓口を案内することで高ストレス者をはじめ、悩みを抱えている従業員のストレスに関する相談ハードルを下げ、適切なケアが実現できます。
面接指導の目的は、あくまでも従業員のメンタルヘルス不調の未然防止、改善である点に留意し、面接指導とは異なるアプローチでフォローアップできる手段を持っておくことも重要です。
【ストレスチェックで高ストレスと判定された方へ】面接指導を受ける側の対応方法
できる限り、面接指導の希望を申し出て産業医による面接指導を受けるのがおすすめです。産業医との面談を通じて、現在の状態やストレスの要因を把握するなど、改善に向けた手助けを受けられます。他にも業務の負担軽減に向けた方法やセルフケア、ストレスマネジメントのテクニックなど、適切なアドバイスを提供してもらえる他、状況に応じて専門機関につなぐ措置も行われます。
特に高ストレスの原因が仕事にある場合は、職場環境に詳しい産業医と面談を行った方が、的確な指導やサポートを得られる可能性があるため、気軽に社内の窓口を利用してみましょう。面接指導の申し出にどうしても抵抗がある場合は、心療内科の受診や社外のカウンセリングでの相談、社外の相談窓口やストレスコーピングの活用なども検討してみてください。
高ストレス者が受ける面接指導とは?
高ストレス者と判断された従業員が受ける面接指導の実施内容について、理解しておきましょう。
面接指導の「希望」と実施の「義務」
医師による面接指導を受けることが望ましいと判断された高ストレス者が面接指導を受けるか否かは、本人の希望に委ねられます。高ストレス者と判断された従業員は、できるだけ申し出た上で、面接指導を受けることが望ましいでしょう。
注意すべきは、従業員は「任意」で受けるものですが、面接指導の申し出があった場合、事業者は「実施」の義務を負っている点です。ただし、高ストレス者として選定されたことが事業者側に伝わるのは、従業員から面接指導の申し出があったタイミングです。
面接指導の流れ
面接指導の流れはおおよそ次の通りです。
①事業者は高ストレス者からの面接指導の希望を受け、医師に面接指導を依頼する
②医師と高ストレス者で面接指導を実施する
③面接指導後、事業者は産業医から意見聴取し、改善に向けた適切な対応を取る
面接指導者の実施者
面接指導の実施者は労働安全衛生法において医師と規定されています。また、厚生労働省の「ストレスチェック制度導入ガイド」では、事業場の職場環境をよく理解している人が望ましいともされています。これらのことから、各事業場の産業医もしくは事業場において産業保健活動に従事している医師がいる場合には、その人にお願いすると良いでしょう。
従業員の数が50人未満で産業医がいない事業場の場合は、地域産業保健センターのサービスを受けることも可能です。なお、面接指導に事業者側の担当者が同席することはありません。
面接指導の内容
面接指導とは、高ストレス者の勤務状況・心理的負担・心身状況などを確認し、解決のための指導を行うものです。高ストレス者の身体やメンタルの不調を予防したり解消したりすることが目的です。
面接指導では、ストレスチェックの3項目(ストレス反応、ストレス要因、周囲のサポート)に加えて以下の項目について確認します。
【確認する項目】 ①従業員の勤務状況 ②心理的な負担の状況(抑うつ症状等) ③その他心身の状況 |
併せて現在の勤務状況、ストレス負荷の程度、生活習慣などをヒアリングし、従業員のストレスが業務に起因するものかどうか、心身にどの程度負担がかかっているのかなどを判断します。ストレスに対処するための助言や、セルフケアの指導を行うこともあるでしょう。
面接指導については以下の記事も併せてチェックしてみてください。
面接指導実施後は、既定の様式を使用して労働基準監督署にストレスチェックと面接指導を受けた人数の報告を行う必要があります。詳しくは以下より確認してください。
■心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書■
高ストレス者のケアを促す仕組みや、ストレス対策を考えよう
ストレスチェックは実施すればそれで終わりではありません。高ストレス者から面談指導の申し出があった場合は速やかに対応し、ストレスを軽減する方法を考える必要があります。また、面接指導を希望しない人や隠れ高ストレス者が相談しやすい環境作りをすることも大切です。産業医との連携も強化して、従業員から高ストレス者が出ないような職場環境を整えていきましょう。